top of page
Search
Writer's pictureHiroshi Goto

資産運用:プロ投資家が見込む株式や債券の長期リターン(収益率)は?

Updated: Apr 30, 2024

年金基金や保険会社、大学寄金などの機関投資家(資産運用を職業とするプロ投資家)は、将来の支払いに備えて資金を積み立てるだけでなく、運用目標や許容可能なリスクをもとに、株式や債券などの資産配分を決めています。このとき重要なインプットに、株式や債券にどの程度のリターン(収益率)、リスク(標準偏差)、分散効果(相関係数)を想定するかがあります。これを資本市場前提(Capital Market Assumptions)と呼びます。

 

資産配分を検討するプロセスは個人でも同じであるべきで、この資本市場前提の考え方は個人の資産運用やフィナンシャル・プランニングでも有用です。今回の記事では、資本市場前提の中のリターン(収益率)の設定について解説します。



プロ投資家が見込む株式や債券の長期リターン

  

資本市場前提の目的

資本市場前提は、長期の資産配分計画に使用するものです。ここでいう「長期」は一般に20年から30年にわたります。また、予測(Forecasts)ではなく、前提(Assumptions)というのもポイントです。年末の株価水準や今後5年で株式と債券でどちらが魅力的かといったことを予測するものでは全くありません。むしろ、金利やインフレ、GDPの伸び、企業収益の成長率、過去のリターン実績などからして、「長期」的に各資産にどのぐらいのリターンを期待するのが妥当かを示すものです。計画のための前提数値と言ってもいいでしょう。

 

 

ビルディング・ブロック法

各資産の長期期待リターンを設定する際、一般にビルディング・ブロックと言われる積み上げ方式をとります。キャッシュ(短期金融資産)、債券、株式の3資産をシンプルな例で考えてみましょう。

 

キャッシュは、最も換金性の高い、元本割れリスクがほとんどない短期金融資産を指します。利息がつかない現金やタンス預金のことではありません。機関投資家であれば短期の金融市場で運用する資金になりますが、個人であればMMF(Money Market Fund)、短期CD (Certificate of Deposit)がキャッシュに相当します。キャッシュの長期リターンは

キャッシュの長期期待リターン=長期インフレ率+実質金利

です。

 

債券は、一般に債券指数に含まれる債券市場全体(満期が1年超の国債、社債など)を考えます。通常、平均満期は6-7年程度です。これは、

債券の長期期待リターン=キャッシュの長期期待リターン+債券のリスク・プレミアム

と表されます。キャッシュの長期期待リターンに上乗せされる債券のリスク・プレミアムは、より長い満期のリスク(貸し倒れリスク、価格変動リスク)を取ることによるプレミアム(追加リターン)で、一般にイールドカーブ(債券の満期ごとに異なる金利水準)や過去実績を参考に設定します。

 

最後に株式は、

株式の長期期待リターン=債券の長期期待リターン+株式のリスク・プレミアム

のように考えます。株式は債券より格段にリスク水準が高いので、その分のプレミアム(追加リターン)が更に上乗せされると考えます。一般に、上場企業全体のROE(自己資本利益率)や利益成長率、バリュエーション指標(PER等)、過去実績などから長期の株式リスク・プレミアムが設定されます。

 

まとめると、以下のグラフのようになり、積み木を重ねていくような形なので、ビルディング・ブロック方式と言われます。長期的に見れば、キャッシュ<債券<株式の順にハイリスク・ハイリターンになります。


ビルディング・ブロック法による各資産の長期期待リターン

 

 

ある大手運用会社の資本市場前提

具体的に、ある大手運用会社の設定例(2024年4月時点で最新のもの)を見てみましょう。

キャッシュの長期期待リターン=長期インフレ率0.5%+実質金利2.4%=2.9%

債券の長期期待リターン=キャッシュの長期期待リターン2.9%+債券のリスク・プレミアム2.2%=5.1%

株式の長期期待リターン=債券の長期期待リターン5.1%+株式のリスク・プレミアム1.9%=7.0%


債券はキャッシュより2.2%高く、株式は債券よりさらに1.9%高い長期期待リターンの設定になっています。


注意点としては、この数値は運用にかかるコストを引く前の数値です。手数料やファンド費用などを差し引くと、正味の収益率はその分低下しますので、なるべく低コストの運用を行うべきことが分かります。一つの目安として、年あたりの運用コストは0.5%以下を目指すと良いでしょう。


ある大手運用会社の資本市場前提

 

 

まとめ

CDの金利が4%台の昨今、キャッシュの利回りが魅力的に見えるかもしれません。しかし、長期的にはCDの金利は(特にコスト差し引き後では)インフレ率と同等しかなく、足元はインフレ率が先に低下して金利が高止まりしているため、相対的に高く見えます。今年後半はFEDの利下げ開始も予想されており、それはキャッシュの利回り低下、魅力度低下を伴います。


また長期的に見れば、債券や株式の期待リターンも、キャッシュの利回りが上がった分、底上げされていると言えます。1-3年以内に使う予定がある資金はCD、MMFなどのキャッシュで運用するのがいいと思いますが、長期的な資産運用に関しては、株式と債券のバランス型資産配分を基本とし、キャッシュへの過剰な配分は注意したいところです。

203 views
ブログ購読フォーム

購読ありがとうございます。

bottom of page