ソーシャル・セキュリティ:給付額に物価上昇を反映する仕組み
ソーシャル・セキュリティには、物価や賃金の伸びを給付額に反映する仕組みがあります。長期にわたる給付の実質購買力を維持するためです。特にコロナ禍以降の物価高によって2021年5.9%、2022年8.7%と非常に高い物価調整が給付額に行われ、話題になりました。この記事では、ソーシャル・セキュリティの給付に物価や賃金の伸びを反映する仕組みについて説明します。
COLA(Cost-of-Living Adjustment)とは
ソーシャル・セキュリティの物価調整率は、COLAと呼ばれています。COLAは、労働統計局が発表するCPI(消費者物価指数)統計のうち、CPI-W(Consumer Price Index for Urban Wage Earners and Clerical Workers)に基づきます。具体的には当年7-9月のCPI-W指数平均を前年7-9月のCPI-W指数平均で割り、前年比伸び率を算出します。これを翌年の給付額を増額する物価調整率として用います。
例えば、2023年のCOLAは3.2%です。これはどのように計算されているかというと、2023年7・8・9月のCPI-Wの平均301.236を2022年7・8・9月のCPI-Wの平均291.901で割ります。すると、1.03198…となります。1を引いてパーセントを取り(3.198…%)、小数点第2位を四捨五入して3.2%となります。このCOLAにより、2024年1月から1年間の給付額は2023年対比で3.2%増額されることになります。
現在のように自動的にCOLAが調整されるようになったのは1975年からで、以下のような推移になっています。COLAはマイナスにはせず、物価が下落していた年はゼロになります。
すでに述べたように、COLAは過去1年の物価上昇を翌年の給付に反映する仕組みです。したがって、2021年、2022年のように非常に高い物価上昇があると、給付が増額されるまで時間差があり、受給者の当座の生活は苦しくなってしまいます。
COLAはいつから適用されるのか
COLAは受給開始してからしか適用されないと勘違いされることもありますが、実は受給開始前から適用されています。ですので、COLAの増額が受けられないからと受給開始を急ぐ理由は全くありません。
どういうことかと言うと、受給開始しているかどうかにかかわらず、給付額の算定基礎になるPrimary Insurance Amount(PIA)に毎年適用されているのです。PIAは、様々なソーシャル・セキュリティ給付額の算定基礎になる数値であり、老齢年金の場合、個々の受給者が標準受給開始年齢で毎月受け取ることができる金額を表します。PIAは受給資格が生じる年(老齢給付の場合は62歳)に計算され、その後は、受給開始しているかどうかにかかわらず、毎年COLAが適用され、増えていきます。
全国平均賃金指数による調整
ではPIAが計算されるまでは、物価上昇はどのように考慮されるのでしょうか。「ソーシャル・セキュリティ給付の算定基礎となるPIA(Primary Insurance Amount)とは」で、PIAの元となる調整後平均月次報酬(Average Indexed Monthly Earnings、AIME)について説明しました。
AIMEは、報酬履歴の中で受給者が最も高い報酬を得た35年の月次平均です。このAIMEを算出する際に、各年の名目報酬をその年からPIA算定時点までの全国平均賃金指数(Average Wage Index)で調整して、PIA算定時点の価値に合わせます。これにより、過去の名目報酬に賃金上昇分が反映されるというわけです。
なお、1975-2022年の全国平均賃金指数の伸びは年率4.4%で、COLAの平均3.8%より0.6%高いです。この差は、いわゆる労働生産性の向上に相当します。
62歳でPIAを算定する際に、2歳前の平均賃金指数水準(60歳になる年)に過去の名目報酬履歴を調整するルールになっています。つまり、61歳の1年間は賃金指数、物価指数、いずれによる調整もないことになります。その間に大きな賃金・物価上昇がなければ問題ないですが、そうとも限りません。例えば、2022年に62歳になった方(1960年生まれ)は2021年(5.9%)、2023年に62歳になった方(1961年生まれ)は2022年(8.7%)の記録的な上昇の調整を受けられなかったことになります。
まとめ
物価の上昇をもとに給付額を増額する仕組みは、インフレから受給者の生活を守るために非常に重要です。特にコロナ禍以降インフレが高止まりしており、実質購買力を維持するための大切な役割を果たしています。
COLAは受給開始しているかどうかにかかわらず、給付額の算定基礎になるPrimary Insurance Amount(PIA)に毎年適用されています。したがって、COLAによる増額を受けるために受給開始を急ぐ必要は全くありません。