リタイアメント・プランニング: 毎年いくら資産を取り崩しても大丈夫か
現役時代に蓄積(Accumulation)した資産を、リタイア後は取り崩し(Decumulation)ながら生計を立てることが一般的です。この際、毎年どれぐらい資産を取り崩しても、底をつかずに生活し続けられるかは、リタイアした人々の大きな関心事です。この目安として、Safe Withdrawal Rate(安全な資産取崩し率)という概念があります。今回の記事では、このSafe Withdrawal Rateについて取り上げたいと思います。
Safe Withdrawal Rateとは
Safe Withdrawal Rateは経験則的に4%と言われます。どういう意味かというと、リタイア時点で例えば100万ドルの資産を持っていたとします。そこから毎年4万ドル(毎年物価上昇率に合わせて増やしていきます。例えば2%物価が上昇したら$40,800)を取り崩したとしても、高い確率で、寿命を全うするまで(一般に30年を想定)に資産が底をつきることはないだろうというものです。
どんな風に使えるかというと、例えばリタイア後の生活費が$60,000/年、ソーシャル・セキュリティが$40,000/年で、不足額の$20,000/年を資産取崩しで賄わなければならないとします。この場合、いくら資産を持っていればリタイアできるでしょうか。Safe Withdrawal Rate 4%を使って毎年$20,000をねん出するのに必要な資産は、$20,000÷4%=$500,000となります。
このように、いくら取り崩せるか、またはある金額を取り崩すにはいくらの資産が必要かをざっくりと把握するには便利な数値です。
実際には
少し考えてみると、4%がいつも当てはまるとは思えません。資産がどれぐらい長持ちするかは、物価上昇や金利水準、株式や債券の収益率、そして資産がどのように投資されているかによって異なるはずです。
調査機関のMorningstar社が毎年Safe Withdrawal Rateについて分析、アップデートを行っています。この際の前提は、以下の通りです。
期間は30年
資産配分は株式40%、債券60%
90%の確率で資産が底をつかない
分析時点におけるMorningstar社の資本市場リターン(収益率)前提に基づく
2023年の分析結果(The Good News on Safe Withdrawal Rates)は、たまたま経験則と同じ4%でした。2022年3.8%、2021年3.3%でしたので、徐々に上がっています。これは近年の金利上昇によって、債券をはじめ将来見込まれる資産リターン(収益率)が底上げされているためです。
資産リターンが高いほど、Safe Withdrawal Rateは高くなります。また期間(余命)が30年より短ければSafe Withdrawal Rateは高く、長ければSafe Withdrawal Rateは低くなります。Morningstarの分析によれば、期間20年では5.4%、期間40年では3.4%となっています。
自分で年金をつくる
先日「アニュイティの基本」で年金保険について概観しましたが、Safe Withdrawal Rateで資産を取り崩すというのは、自分で年金を作っているのに近いです。アニュイティのような複雑さや不透明なコスト、換金性の問題がないのがメリットですが、余命(必要な期間)が予測できないため、長生きリスクを完全になくす(終身年金化する)ことはできません。
実際には毎年取り崩す必要がある金額は一様ではないと思いますし、リタイア後のポートフォリオやキャッシュフロー、税務的な影響を勘案して資産の取り崩しをきちんと分析・計画する必要があるでしょう。ただ、その限界を認識しつつ大まかに取崩し可能額を把握するには、Safe Withdrawal Rateは便利な指標と言えます。