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Writer's pictureHiroshi Goto

ソーシャル・セキュリティ vs. 厚生年金:どちらが得か

Updated: Jun 9

アメリカで働いている日本人は、日米社会保障協定に基づき5年未満の駐在・出向としてソーシャル・セキュリティの加入が免除され、厚生年金に継続加入していることがあります。一方、アメリカの会社に転籍・現地社員への転換で、厚生年金からソーシャル・セキュリティに切り替わることもあります。


社会保障制度は世代間扶養の面があり一概に損得で測るものではないですが、一加入者としては、掛金負担(保険料または税)と受益(年金受給額)のバランスが気になるところです。そこで今回は、どちらの制度の方が掛金に対して受益の割合が高いのか、試算してみたいと思います。

なお、あくまで2024年1月時点の比較であり、過去の制度や将来の変更可能性を考慮したものではありませんので、お含みおきください。


ソーシャル・セキュリティ vs. 厚生年金:どちらが得か

厚生年金

厚生年金保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担します。厚生年金保険の保険料率は、18.3%です。


・一年間の掛金負担

例として、標準報酬月額65万円(標準報酬月額の上限)の場合、月額保険料は全額(18.3%)で118,950円、折半額(9.15%)で59,475円となります。また、標準賞与額は支給一回につき150万円が上限で、その際の保険料は全額(18.3%)で274,500円、折半額(9.15%)で137,250円となります。標準報酬月額上限および標準賞与額上限2回で年収を計算すると1,080万円となり、その際の年間保険料は全額(18.3%)で1,976,400円、折半額(9.15%)で988,200円です。


・一年加入することによる年金年額の増加

それに対して、老齢給付金は基礎年金と報酬比例部分から構成されます。


基礎年金(昭和31年4月2日以後生まれ)の年金年額は、保険料納付月数あたり795,000円÷(40年(加入可能年数)×12か月)=1,656円増えていきます。


報酬比例部分の給付金の計算(平成15年4月以降の加入期間)は

平均標準報酬月額×5.481/1000×加入期間の月数

です。平均標準報酬月額とは、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割った額です。標準報酬月額上限および標準賞与額上限2回(年収1,080万円)の例では、平均標準報酬額は90万円(1,080万円÷12)となります。90万円×5.481/1000は4,933円ですので、4,933円×加入期間の月数で報酬比例部分の年金年額が増えていきます。


したがって、加入期間一か月あたりの年金年額の増分は、基礎年金1,656円+報酬比例部分4,933円=6,589円です。これを加入期間一年にすると、79,068円(6,589円×12か月)となります。


・掛金負担に対する受給額の比率

年間保険料に対する比率は、全額(18.3%)で4.00%(79,068円÷1,976,400円)、折半額(9.15%)で8.00%(79,068円÷988,200円)です。保険料と年金年額の比率で見ていますので、標準報酬月額上限および標準賞与額上限未満の給与でも、ほぼ同じ比率になるはずです。

 

ソーシャル・セキュリティ

同じように、ソーシャル・セキュリティの掛金と年金年額の比率を計算してみましょう。

ソーシャル・セキュリティ税は給与・ボーナスに対して12.4%(これを労使折半)です。


・一年間の掛金負担

分かりやすく年収10万ドル(2024年の課税ベース年収の上限は16万8,600ドル)とすると、ソーシャル・セキュリティ税は全額(12.4%)で12,400ドル、折半額(6.2%)で6,200ドルとなります。


・一年加入することによる年金年額の増加

老齢年金は、Primary Insurance Amount(PIA)の計算に基づきます。ここでは、過去にソーシャル・セキュリティ税の課税対象となる所得実績がなかったと仮定します(PIA Percentageが90%)。年収10万ドルで一年間ソーシャル・セキュリティ税を納めた場合の年金年額の増分は、

10万ドル÷(35年×12か月)×90%×12か月=2,571ドルとなります。

(ここでは、賃金インデックスによる調整は考慮していません)


・掛金負担に対する受給額の比率

ソーシャル・セキュリティ税に対する比率は、全額(12.4%)で20.74%、折半額(6.2%)で41.47%となります。


厚生年金とソーシャル・セキュリティの比較

単純比較すると、加入期間一年あたりの掛金と年金年額増分は以下の表の通りとなります。


厚生年金とソーシャル・セキュリティ:比較表1

ただし、厚生年金は標準受給開始年齢が65歳、ソーシャル・セキュリティは67歳ですので、ソーシャル・セキュリティを65歳で繰り上げ受給した場合に補正します(給付額は67歳受給開始の場合の87%)。


厚生年金とソーシャル・セキュリティ:比較表2

上表の逆数になりますが、一年間支払った掛金を何年の年金受給で回収できるかという見方もできます。



単純な例ですが、ソーシャル・セキュリティの方が掛金と給付の割合はかなり優れていることが分かりました。

 

まとめ

掛金と給付の割合を見ると、厚生年金よりソーシャル・セキュリティの方がかなり得だと言えそうです。ここでは、加入者の老齢年金だけを比較しています。そのほかに厚生年金、ソーシャル・セキュリティともに様々な給付(配偶者や被扶養家族が受け取れる年金など)があり、包括的な比較ではありません。また、ソーシャル・セキュリティには棚ぼた防止規定(Windfall Elimination Provision、WEP)による減額の可能性もあります。とは言えこれだけ差が大きいと、調整後平均月次報酬(AIME)が高い場合(PIA Pecerntageが90%ではなく32%)やWEPによる減額が適用される場合でも、ソーシャル・セキュリティに軍配が上がるでしょう。

(なお、AIMEが非常に高く(2024年基準で$7,078超)、適用されるPIA Percentageが15%の場合は、厚生年金が有利になります。)


逆にこんなに手厚い給付をして財政的に大丈夫なのかと思われた方もいるかもしれません。ソーシャル・セキュリティの財政問題については、別の記事にしたいと思っています。


当社では、リタイアメント・インカム・プランニングの一環として、クライアントの所得実績および将来の前提を用いたソーシャル・セキュリティの年金見込み額算定を承っております。お気軽にお問い合わせください。

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