日本への永住帰国:米国出国税の概要
今回の記事では、永住権を放棄した場合の米国出国税について概要をまとめてみます。
もし出国税の対象になる可能性がある場合、401(k)からIRAのロールオーバーには注意が必要です。
出国税の対象者
米国の内国歳入法上、市民権(米国国籍)を有する人は、米国内に居住しているか否かを問わず、すべての所得(国内源泉所得及び国外源泉所得)を課税対象として、所得税が課されます(全世界所得課税)。米国永住権を有している人についても、米国市民と同様にすべての所得が課税対象とされます。
また、米国市民が市民権を放棄した場合、または長期居住者*が永住権を放棄した場合(永住権等放棄)に、その放棄をした人が次に掲げるいずれかに該当する場合には、米国出国税の対象となります。
*「長期居住者」とは、米国永住権の保有者でその放棄前15年のうち8年(数え年)以上米国の永住権を保有していた人
[ 出国税の対象(Covered Expatriate)になる条件 ]
永住権等放棄前の5年間の所得税の平均年額が$190,000(2023年)を超えていること
永住権等放棄時の純資産額が200万ドル以上であること
永住権等放棄前の5年間について、所得税の申告内容に誤りがない旨の宣誓証明をしていないこと
キャピタルゲイン課税
原則として全ての資産を対象として、永住権等放棄をしたものとされた日の前日における時価により資産が売却されたものとして、その資産のキャピタルゲインに対して課税されます。
キャピタルゲインに関しては、$821,000(2023年)の控除があります。したがって、$821,000を超えるキャピタルゲインがある場合に、課税されます。
その際の累進税率は長期キャピタルゲイン(1年以上保有)は課税所得に応じて0%、15%、20%(下表参照)、短期キャピタルゲイン(1年未満保有)はOrdinary Incomeに加算する形になります。
さらに、単身者で$200,000、夫婦合算申告で$250,000のModified Adjusted Gross Incomeの場合、Net Investment Income Tax 3.8%が追加でかかります。
キャピタルゲインと異なる課税がされる資産
また、キャピタルゲイン課税の例外として、異なる取り扱いがされる資産もあります。
[ キャピタルゲイン課税の例外 ]
Specified tax-deferred accounts (Traditional/Roth IRA、HSA、529 Planなど)
出国前日に全額引き出されたとみなし、所得課税(永住権を放棄した年のForm 1040に全額所得として申告)。
Eligible deferred compensation (401(K)、403(b)、457、SEP、SIMPLE、Annuity)
出国後30日以内、または最初の引き出し(Distribution)の前日の早い方までに口座管理機関にW-8CEを提出しなければならない。引き出し時には30%の源泉徴収が適用されるが、日米租税条約により年金課税は居住国(日本)のみなので、米国Tax returnを行い還付を受けることができる。
Ineligible deferred compensation (Foreign pension plans、vested yet unexercised stock options packages等)
出国前日の現在価値を受け取ったとみなし、所得課税(永住権を放棄した年のForm 1040に全額所得として申告)。
Beneficial interests in non-grantor trusts
Distributionに対して30%の源泉徴収が適用される。
IRAロールオーバーに注意
ここで注意したいのは、401(k)が(30%源泉税を還付することによって)実質的に課税されない扱いであるのに対して、IRAは永住権等放棄の年に全額引き出されたものとして所得課税されることです。IRAの金額が大きい場合、累進税率によって最高37%(2024年)の所得税率が課されることになります。
出国税の対象になる可能性がある場合、401(k)からIRAへのロールオーバーは税務上かなり不利となる可能性があります。すでにロールオーバーしている場合は、永住権等放棄前に、複数年度にわたって引き出すかRoth Conversionをして税額を抑制するか、生前贈与を通じて資産を家族内で分散して出国税対象にならないような手立てが必要でしょう。