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Writer's pictureHiroshi Goto

アニュイティの上手な使い方

Updated: 16 hours ago

アニュイティ(Annuity)は、日本で言うところの個人年金保険です。様々なタイプの商品があり、中にはとても複雑な商品もあります。今回の記事では、アニュイティの基本的な商品性を整理した上で、その上手な使い方について考えてみたいと思います。


アニュイティの上手な使い方


様々なアニュイティ商品

アニュイティの商品性、いくつかの観点から分類されます。

保険料の支払い方法:

  • 一時払い(Single Premium)

  • 定期払い(Periodic Payments)

年金支払いの始まる時期:

  • 即時年金(Immediate Annuities)

  • 据置年金(Deferred Annuities)

年金額または口座残高の固定・変動:

  • 定額年金(Fixed Annuities)

  • 指数連動年金(Index Annuities)

  • 変額年金(Variable Annuities)


典型的な即時年金は、一時払いのもので(Single Premium Immediate Annuities、SPIA)、保険料を一時払いした後にただちに年金の支払いが始まるものです。一定期間後に支払いが始まるものは据置年金(Deferred Income Annuities)です。


年金額が一定の利率で保証されているタイプは、定額年金(Fixed Annuities)です。指数連動年金(Index Annuities)は、S&P500などの株式指数に連動しますが、多くは指数連動の上限(Cap)や参加率(Participation Rate)の設定がある代わりに、元本が保証されています。変額年金(Variable Annuities)は、加入者の口座の中でミューチュアル・ファンドに投資するもので、元本保証はなく、アニュイティの中では市場変動リスクが大きいタイプです。


この他にも、解約可能期間と解約手数料、年金の支払い方法(定期または終身、保証期間(Period Certain)の有無、単独の被保険者か夫婦連生(Joint and Survivor)か)、付帯条項などで様々な設計があります。



アニュイティの本質的な機能

アニュイティならではの本質的な機能は、存命の限り一定の金額が毎年支払われる「終身年金」です。定額年金は金利付加機能、指数連動年金や変額年金は市場運用機能が加わったものと考えることができます。


終身年金の最もシンプルな形態は、一時払いの即時年金または据置年金です。この商品分野はコモディティ化(定型化、低コスト化)しており、保険代理店・エージェントだけでなく、FidelityCharles Schwabでも購入可能です。


では一時払いの終身年金について、金融商品としての特性を考えてみましょう。


下のグラフは、一時払い終身年金の利回りと米国債利回りを比較したものです。一時払い終身年金は、FidelityのGuaranteed Income Estimatorで計算しました(前提条件:1964年生まれの男性、2024年(60歳時)に$100,000払込、2034年(70歳)から年金受け取り(Cash Refund形式))。


一時払いの終身年金の利回りは、年齢別にそれまでに受け取る年金額をもとに利回り(内部収益率、IRR)を算出しました。Cash Refundという年金受け取り形式を選択した場合、年金受取額合計が払込額に達する前に亡くなった場合、死亡時に払込額残額が支払われます。したがって、年金受取額が払込額を超えるまでは払込額=総受取額で、利回りはゼロになります。年金受取額が払込額を超えたあとは、長生きすればするほど受取額が増えるので、利回りが高くなります。


一時払い終身年金の利回りと米国債利回り

金利商品の代表として、期間別の米国債利回りと比較します。すると、80歳後半まで存命であれば、米国債に投資していた場合より一時払い終身年金の方が高利回りになることが分かります。このように一時払い終身年金を金融商品としてみた場合、寿命の長短で利回りが変動する商品と見ることができます。


ただ誰も自分の寿命の長さは分からない中で、存命の限り一定の金額が毎年支払われるという終身年金の安心感は、他の金融商品では得られません。この特性から、厚生年金やソーシャル・セキュリティといった公的年金(同じく終身年金)の補完という形で、アニュイティを活用することが考えられます。


具体的には、リタイア後の生活費と公的年金の受給額を比較して、公的年金で生活費を十分に賄えるのであれば、アニュイティは不要です。公的年金が生活費をだいぶ下回るようであれば、アニュイティでリタイア後の確定収入を追加することは、検討価値があるでしょう。



アニュイティによる市場運用は非効率的

ある保険代理店のウェビナーで、指数連動年金(Index Annuities)についてS&P 500が上がった際には50%追随し、下がった場合には0%という説明がされていました。それを聞く限りアップサイドしかないのですから、極めて魅力的です。


金融市場にフリー・ランチはないと言われますが、リスクやコストの負担なしに収益(この場合はS&P 500上昇率の50%)を得ることはできません。リスクがない(S&P 500下落率には追随しない=元本保証)ということは、そのためのコストを何らかの形で払う必要があります。ウェビナーでは、そのコスト(明示的または非明示的なフィー)の説明が抜け落ちていました。


加えて、指数連動年金や変額年金(Variable Annuities)は市場運用機能を持った年金商品ですが、市場運用にかかるフィーは、Mutual FundやETFに比較して高止まりしています。「こんなに違う!運用コストが与える長期パフォーマンスへの影響」で見ましたが、ファンド運用のフィーが過去20年あまりで劇的に低下したからです。そして同記事で分析しましたが、運用コストの違いは長期パフォーマンスに大きな影響を与えます。


アニュイティの上手な使い方としては、コモディティ化している一時払い終身年金(アニュイティならではの機能)を公的年金の補完として考えるのがよいでしょう。アニュイティで行う市場運用は割高になる傾向がありますので、運用はアニュイティとは別にMutual FundやETFといったファンドで行った方が効率的です。




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